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NO13. (2006.1.15)

★引き裂かれた悲恋の男女の万葉花・・役人と女官の禁断の恋
巻15(三七二三〜三七八五)・・二人の愛の歌63首のうちの15首

★聖武天皇の時代、中臣宅守(なかとみのやかもり)と、狭野弟上娘子(さののおとがみのおとめ)が恋をしました。二人が知り合ったのは739年ごろ。

中臣宅守は、位のない神祇官(じんぎかん)の下僚(かりょう)でした。中臣家は元々神に仕える仕事をしていました。中臣鎌足も然りです。
余談ですが宅守の父、中臣東人も役人でした。10年前の729年2月、「長屋王の変」で、長屋王は官の追求を受けて自害しましたが、その時、長屋王謀反の訴えを起こした一人が宅守の父、中臣東人でした。この父は二人が出会った頃に何者かに殺されました。藤原氏の出の光明皇后をめぐって、長屋王の変の経緯を知っている者は邪魔者だったのでしょうか。


狭野弟上娘子(さののおとがみのおとめ)は、天皇に仕える下級の女官でした。女官は釆女とは違いますが、いつ天皇の妻妾になるかわからないので、江戸時代の大奥同様、男の人と歌のやりとりをしたり、話をしたりすることは固く禁じられていました。まして官人と女官との密通は禁止されていました。

二人は結ばれますが、禁断の恋が発覚し引き裂かれてしまいます。
宅守は越前に配流になり、娘子は女官の仕事を解かれます。娘子は天皇の妻妾にまだなっていなかったので配流は免れたようです。お互いに逢いたい気持ちを込めて歌った歌が万葉集に63首のこされています。悲しくも切ない歌は心にしみ入るものがあります。


●○●○● ●○●○● 切ない二人の歌 ●○●○● ●○●○●● 


 万葉歌(26) あしひきの 山路越えむと する君を 心に持ちて 安けくもなし 娘子

(けわしい山道を越えて遠くに行ってしまうあなたのことを思いつめて不安な気持ちです)


万葉歌(27) 君がが行く 道の長手を 繰り畳(たた)ね 焼き滅ぼさむ 天の火もがも 娘子

(あなたの行く道を畳んで火をつけて焼いてしまいたい。そんな天の火はないものか)


 万葉歌(28) 我が背子し けだし罷(まか)らば 白たえの 袖を振らさね 見つつ偲はむ 娘子

(愛しい人。もし遠い所へ行ってしまうのならせめて白い袖を振って下さい。袖を見てあなたを思います)


 万葉歌(29) このころは 恋ひつつもあらむ 玉櫛笥 明けてをちより すべなかるべし 娘子

(今のうちは、恋していられるけれど一夜明けてあしたになったら、わたしは切なくて恋しくてどうしようもありません)


★☆★

 万葉歌(30) 塵泥の 数にもあらぬ 我れゆゑに 思ひわぶらむ 妹がかなしさ 宅守

(塵や泥のように、ものの数にもならない私ですが、私のために思い悩んでくれているあなたを思うと愛しくてたまりません)


 万葉歌(31) 愛しと 我が思ふ妹を 思ひつつ 行けばかもとな 行き悪しかるらむ 宅守

(愛しいあなたのことを思いながら歩くからでしょうか。行きづらくて、先に進まないのです)


 万葉歌(32) 恐(かしこ)みと 告(の)らずありしを み越路の 手向けに立ちて 妹が名告(の)りつ 宅守

(あなたの名前を口に出すのが恐れおおくてがまんしていましたが、越前の国の峠にさしかかってついにあなたの名前を口にだしてしまいました)


万葉歌(33) 
我が身こそ 関山越えて ここにあらめ 心は妹に 寄りにしものを 宅守

この体は山や関所を越えて遠くここにありますが、心はいつもあなたに寄り添っています)


★☆★


 万葉歌(34) 我がやどの 松の葉見つつ 我れ待たむ 早帰りませ 恋ひ死なぬとに  娘子

(家の庭の松の葉を見ながら、あなたの帰りを待っています。早く帰って来てください、恋の病で死んでしまわないうちに)


 万葉歌(35) 味真野に 宿れる君が 帰り来む 時の迎へを いつとか待たむ 娘子 

(味真野にいらっしゃるあなたが、帰って来るときのお迎えはいつになるのでしょう)


 万葉歌(36) 帰りける 人来れりと 言ひしかば ほとほと死にき 君かと思ひて 娘子

(赦されて帰ってきた人が到着したと聞いたので、わたしはびっくりして死ぬかと思いました。もしかして帰ってきたのはあなたではないかと思って)


万葉歌
(37) 
昨日今日 君に逢はずて するすべの たどきを知らに 音のみしぞ泣く 娘子

(きのうも今日もあなたに逢えなくて どうしてよいのかわからず、つらくてただ泣くばかりです)


★☆★


  万葉歌(38) 今日をかも 都なりせば 見まく欲り 西の御馬屋の 外に立てらまし 宅守 

(今日 都にいたなら、あなたに逢いたくて、いつものように西の御馬屋の外にたたずんであなたを待っていたでしょう)


  万葉歌(39) 旅にして 物思ふ時に ほととぎす もとなな鳴きそ 我が恋まさる 宅守 

(旅先で物思いにふけっているときに、ほととぎすよ、そんなに鳴かないでおくれ、恋しい気持ちがつのるばかりです)


  万葉歌(40) 旅にして 妹に恋ふれば ほととぎす 我が住む里に こよ鳴き渡る 宅守 

(旅先で、あなたを恋しく思っていると、ほととぎすが、私のいる里を鳴きながら通り過ぎていくのです)



●○●○● ●○●○● 悲しい二人の結末・・奇跡は起きなかった ●○●○● ●○●○●●  


二人はお互いに逢いたくて切ない日々を送りますが、結局二度と逢えることはありませんでした。天平12年(741年)6月聖武天皇・光明皇后病気のため、大赦が行われ流罪の人たちが大勢都に帰ってきましたが、娘子の期待むなしく宅守は返されませんでした。二人が引き離されてすでに数年の月日が流れますが、娘子はひたすら宅守を待ち続けます。宅守も娘子に逢える日を待ち続けます。

宅守は結局、事件から20数年経ってから都に戻され、やっと従五位下の職にありつくことができますが、悲願の娘子は、既に他界していました。配流期間がもっと短かかったらよかったのに。配流期間が長かったのは「長屋王の変」の密告者の息子なので、事件の経緯を知っている人物と思われたのかな・・とふと推理してしまいました。

娘子が生きていたら二人は楽しく暮らせたのに・・なんて、かわいそうな結末(ケツマツ)でしょう。ショックで「ケツマヅ」キそうです。


●○●○● ●○●○● ●○●○● ●○●○●● ○●○●● ○●○●● 

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